AI開発の相談をうけています。
「動くものはできたんです。でも、そこから話がまとまりません」
契約の議論が、成果物ができたあとに始まっている、という状況です。
普通の受託開発でも揉めることはあります。
ですが、AI開発には、それ特有の揉めるポイントがあります。
本記事では、発注側と受注側でどこが食い違うのか、契約書に書かれないまま走るとどうなるかを整理します。
AI開発が普通の受託開発と違うところ
まず、AI開発が通常の開発と何が違うのかを押さえます。
成果物の定義が曖昧になりやすい
「AIで業務を効率化するもの」では、何ができれば完成なのかが決まりません。
普通のシステムより、ゴールの輪郭がぼやけやすい傾向があります。
学習データという原材料の存在
AIは、学習データを材料にして作られます。
このデータを誰が用意し、誰が責任を持つのか。
通常の開発にはない論点が、ここに増えます。
精度の保証範囲がはっきりしない
「どれくらいの精度なら合格か」
「どれくらいの精度ならサービスとして成り立つことにするか」は、やってみないと分からない部分があります。
保証の範囲を決めにくいことが、後の食い違いにつながります。
契約書に書かれないまま走り出すと何が起きるか
論点を決めずに走ると、似たようなことが起きます。
PoCのつもりが本番運用に流れ込む
最初は試し(PoC)のつもりだった。
ところが、動いたのでそのまま本番に使われる。
試しの前提で結んだ約束が、本番に持ち越されてしまいます。
「完成」の判断ができないまま延びる
合格ラインが決まっていないと、いつまでも「もう少し」が続きます。
受注側は終われず、発注側は満足できません。
学習データの責任の所在が曖昧になる
提供されたデータに問題があったとき、誰の責任か。
決めていないと、トラブルが起きてから押し付け合いになります。
発注側・受注側で見えている景色が違う論点
同じプロジェクトでも、発注側と受注側で見えているものが違います。
成果物の精度と検収基準
発注側は「使えるレベル」を期待します。
受注側は「契約で決めた範囲」を見ています。
基準が共有されていないと、ここでずれます。
データ提供の範囲と扱い
どこまでのデータを、どう使ってよいか。
発注側は「この用途だけ」、受注側は「学習に使える」と考えていることがあります。
派生モデル・再利用の可否
作ったモデルを、別の案件にも使ってよいか。
受注側にとっては資産、発注側にとっては自社専用、と認識が割れがちです。
運用後の改善・追加学習の費用
納品して終わりではなく、運用しながら改善することが多いものです。
その費用を誰が持つかを、先に決めていないと揉めます。
知的財産・データの取扱いで詰まる場面
AI開発では、権利とデータの扱いでよく詰まります。
学習データの権利関係と利用許諾
学習に使うデータに、第三者の権利が絡んでいないか。
本記事執筆時点の一般論として、ここは案件ごとに丁寧な確認が要ります。
モデルの著作権・営業秘密としての扱い
できあがったモデルを、どういう権利として扱うか。
著作権の話なのか、営業秘密として守るのか。
契約や案件によって変わるため、断定は避け、個別に整理する必要があります。
出力物の権利帰属と利用範囲
AIが生み出した出力物の権利を、どちらが持つか。
ここは一般論でも見解が分かれる部分があり、契約で取り決めておくことが現実的です。
第三者データ・OSSの混入リスク
開発の過程で、第三者のデータやオープンソースが混ざることがあります。
混入したときの責任分担を、あらかじめ決めておきたいところです。
契約書を組み立てるときに整理しておきたいこと
揉めないための契約は、いくつかの切り分けから始まります。
PoC段階と本開発段階を分ける
試しの段階と、本番の段階は、別の契約として分けておく。
前提が違うものを、同じ契約で扱わないようにします。
精度・検収・運用後の責任を切り分ける
どこまでが納品で、どこからが運用か。
合格の基準と、その後の責任を、それぞれ書き分けます。
データの提供・返還・廃棄の段取りを書く
預かったデータを、いつ返し、いつ廃棄するか。
段取りを書いておくと、終わったあとのトラブルを防げます。
第三者請求が来たときの責任分担を書く
外部から権利の主張が来たとき、どちらがどう対応するか。
ここを決めておくと、いざというとき動けます。
なお、実際の紛争対応や損害賠償の交渉は弁護士の領域になるため、契約書を整える段階の話として捉えてください。
行政書士に相談するメリット
契約書を整える段階では、行政書士が関われます。
契約書の条項設計と社内規程との接続
契約書の条項を、自社の規程やルールとつなげて整えます。
契約だけが浮かないようにします。
個人情報・営業秘密の取扱いを一連で点検
データの扱いは、個人情報や営業秘密の管理ともつながります。
契約と社内の取扱いを、まとめて点検できます。
よくある質問
雛型をそのまま使ってもよいですか
構成の参考にはなります。
ただし、AI開発特有の論点が抜けていることが多いので、案件に合わせて足す前提で使ってください。
PoCだけなら契約書は要らないですか
試しの段階でも、データの扱いや成果物の権利は発生します。
簡単でよいので、書面で前提を合わせておくほうが安全です。
出力物の著作権は発注側に帰属するのが普通ですか
「普通はこう」と言い切れない論点です。
契約で取り決めるのが現実的なので、当事者間で決めて明文化してください。
揉めそうになったとき誰に相談すべきですか
契約書を整える段階であれば行政書士が関われます。
すでに紛争になっている場合は、弁護士に相談する場面です。
まとめ
AI開発は、動くものができたあとで議論が始まりがちです。
成果物の定義、学習データ、精度、権利。
書かれないまま走ると、これらが後からまとめて噴き出します。
完璧な契約を一度で作る必要はありません。
まずはPoCと本開発を分け、データと成果物の扱いを書面で合わせるところからで十分です。
契約書の条項設計や、社内規程との接続でお困りのことがあれば、一度ご相談ください。


