相続の生前準備は、財産を多く持つ人だけが行うものではありません。
家族が亡くなった後に困るのは、財産の金額が大きい場合だけではなく、「何を持っていたか分からない」「本人の希望が分からない」「事業や契約を誰が処理するか決まっていない」という場合です。
特に、会社・個人事業、デジタル資産、遠方の土地、家族が知らない契約などがあると、本人しか分からない情報が失われることで手続が止まります。
このページでは、「生前対策」という業務名ではなく、「家族の負担を減らしたい」という目的から、今のうちに整理することと、遺言書・任意後見・死後事務委任などの使い分けを説明します。
このページは、このような方のためのものです
- 家族に相続手続の負担をかけたくない
- 自分の財産を家族が把握していない
- 遺言書を作るべきか迷っている
- 会社や個人事業を誰に引き継ぐか決めていない
- ネット銀行、暗号資産、SNS等の扱いを決めたい
- 使っていない土地や遠方の不動産がある
- 家族関係が複雑で、相続人同士の争いを避けたい
- 判断能力が低下したときや死後の手続も考えておきたい
家族が困る原因を先に確認する
財産の所在が分からない
銀行口座、不動産、保険、株式、借入金などの存在が分からなければ、家族は郵便物や端末を一つずつ調べることになります。
財産額を常に家族へ知らせる必要はありませんが、少なくとも「どのような財産・債務が、どこにあるか」を確認できる手掛かりを残します。
本人の希望が分からない
誰に何を残したいか、会社を続けてほしいか、SNSを削除してほしいか、葬儀や納骨をどうしてほしいかなど、家族だけでは判断できないことがあります。
希望の内容に応じて、遺言書、契約書、任意の連絡文書など、適切な形で残します。
手続をする人が決まっていない
相続人がいても、全員が遠方に住んでいる、高齢である、事業やデジタルサービスを理解していない場合があります。
財産を受け取る人と、実際の事務を行う人は同じとは限りません。遺言執行者、死後事務の受任者、事業上の緊急連絡先などを目的別に検討します。
重要情報が本人に集中している
経営者やフリーランスの場合、契約、許認可、顧客対応、パスワード、二要素認証などが本人に集中していることがあります。
本人が動けなくなった時点で事業が停止しないよう、平時から権限と情報を分散します。
最初に作る財産・契約の一覧
一覧には、少なくとも次の項目を含めます。
財産
- 預貯金
- 不動産
- 株式・投資信託
- 保険
- 自動車・貴金属等
- 貸付金・売掛金
- 暗号資産・ネット上の財産
債務・保証
- 住宅ローン・事業借入
- クレジット・未払金
- 個人保証
- 継続的な支払い
会社・事業
- 会社株式
- 役員・株主構成
- 事業用資産
- 許認可
- 主要契約・取引先
- 事業用口座・借入
- 後継者候補
デジタル資産・契約
- ネット銀行・オンライン証券
- 暗号資産
- ドメイン・サーバー
- メール・クラウド
- SNS
- サブスクリプション
- 顧客データ・制作データ
一覧にはパスワードそのものを無条件に書かず、存在、契約名義、確認方法、希望する処理を整理します。
遺言書で決められること
遺言書では、財産を誰に取得させるか、遺言執行者を誰にするかなどを定められます。
次のような場合は、遺言書を作る必要性が高くなります。
- 子どもがいない夫婦
- 前婚の子や認知した子がいる
- 相続人以外へ財産を残したい
- 特定の相続人へ不動産や会社株式をまとめたい
- 家業の後継者を決めている
- 相続人同士の関係に不安がある
- 寄付をしたい
遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言などがあります。作りやすさだけでなく、保管、検認、内容の確認、本人の判断能力、紛失・改ざんの危険などを踏まえて選びます。
遺言書だけでは決められないこと
遺言書を作れば、生前から死後までのすべてを任せられるわけではありません。
判断能力が低下した後の支援
財産管理、契約、施設入所などを誰に支援してもらうかについては、任意後見契約や財産管理委任契約等を検討します。
葬儀・納骨・契約解除などの死後事務
葬儀、納骨、住居の明渡し、公共料金やSNSの解約などは、死後事務委任契約で受任者と内容を定める方法があります。
[身近に頼れる人がいないため死後の手続を任せたい方へ]
家族への説明と日常の情報共有
法的文書を作っても、その存在を誰も知らなければ利用されません。保管場所、連絡先、定期的な見直し方法を決めます。
会社・事業がある場合の準備
法人
会社株式の行き先、後継者、役員、会社への貸付金、個人保証、個人名義の事業用資産、許認可などを整理します。
株式を複数人へ細分化すると経営判断が難しくなることがあります。相続税だけでなく、経営権と後継者の実務を踏まえて検討します。
個人事業主・フリーランス
事業用資産、売掛金、進行中案件、顧客との契約、許認可、制作データ、アカウントなどを整理します。
家族が引き継ぐのか、第三者へ事業譲渡するのか、終了するのかによって準備が変わります。

デジタル資産がある場合の準備
次の4点を分けて記録します。
- 何があるか
- 誰に存在を知らせるか
- 誰に引き継ぐか、または解約・削除するか
- 認証情報をどのように安全に伝えるか
アカウント一覧とパスワードを同じ場所へ平文で保管すると、漏えい時の危険が大きくなります。サービスの死後設定、共同管理者、パスワード管理ツール、遺言書、死後事務委任などを組み合わせます。

使い道のない土地がある場合の準備
自分でも場所や境界が分からない土地を残すと、家族は相続後に調査から始めることになります。
登記、固定資産税資料、現地状況、管理者、隣接地、農地・森林の届出などを確認し、生前に売却・譲渡等を進めるか、相続後の選択肢を家族へ伝えます。

一度作って終わりにしない
財産、家族関係、事業、サービスは変わります。
次のようなときに見直します。
- 財産を購入・売却した
- 結婚、離婚、出生、死亡があった
- 会社の株主・後継者が変わった
- 新しい事業やサービスを始めた
- 重要なアカウントを変更した
- 受任者や遺言執行者との関係が変わった
- 自分の希望が変わった
年に一度など確認時期を決め、一覧の更新日を記録します。
坂本事務所へ依頼できること
- 相続人・財産・債務の整理
- 財産目録の作成支援
- 遺言書原案の作成、公正証書遺言の準備支援
- 会社・事業・許認可に関する確認事項の整理
- デジタル資産一覧と引継ぎ方針の整理
- 死後事務委任契約、任意後見契約等の文書作成支援
- 必要に応じた司法書士、税理士、弁護士等との連携
財産や契約を整理したうえで、書類を増やすこと自体を目的にせず、必要な対策だけをご提案します。
よくあるご質問
財産が多くなくても遺言書は必要ですか
必要性は財産額だけでは決まりません。家族関係、不動産、事業、相続人以外へ残したい財産などを踏まえて判断します。
エンディングノートだけでは足りませんか
情報や希望を家族へ伝えるうえで有用ですが、通常、遺言書のように財産の承継を法的に指定するものではありません。目的に応じて併用します。
家族に財産額を知られずに準備できますか
財産の存在を知らせる情報と、詳細な金額・認証情報を分けて管理する方法があります。誰に、いつ、どこまで開示するかを設計します。
何から準備すればよいですか
まず財産、債務、契約、事業、デジタル資産の一覧を作り、家族が困る可能性の高いものを特定します。その後、遺言書等が必要か判断します。
家族に残すのは、財産だけではありません
本人にしか分からない情報や判断を整理しておくことで、家族が迷う時間と手続の負担を減らせます。
財産一覧、遺言書、事業、デジタル資産、死後事務を別々に考えるのではなく、ご本人の希望を中心に組み合わせます。
