経営者の相続では、最初から一人の専門家だけですべてを終えられるとは限りません。相談先は、困っていることではなく、必要な手続で選びます。
相続人と財産を調べ、合意済みの内容を遺産分割協議書にするなら行政書士。不動産や会社役員の登記は司法書士。相続税や故人の準確定申告は税理士。相続人間の対立や相続放棄は弁護士が中心です。
まだ必要な手続が分からない場合は、会社と個人の資料を分け、相談事項の入口を整理できる専門家へ相談してください。
会社や事業が関係する相続では、この記事で扱う問題だけでなく、相続人、財産、期限のある手続を全体で見ておく必要があります。最初から順に確認したい方は、相続手続の全体像もあわせてご覧ください。
行政書士へ相談する場面
行政書士は、戸籍の収集、相続関係説明図、財産目録、相続人全員が合意した遺産分割協議書などを扱います。
経営者の相続では、通常の預貯金や不動産に加えて、次のような資料を整理します。
- 自社株と株主名簿
- 会社への貸付金、会社からの借入金
- 個人名義の事業用不動産や車両
- 許認可と変更・承継手続
- ドメイン、サーバー、業務用アカウント
- 個人事業の在庫、設備、売掛金
行政書士は、相続人同士の意見が対立しているときに、一方の代理人として交渉することはできません。また、不動産登記や相続税申告も行いません。これらが必要なら、司法書士、税理士、弁護士と役割を分けます。
司法書士へ相談する場面
次の手続は司法書士の担当です。
- 相続した土地・建物の所有権移転登記
- 会社の代表取締役や役員の変更登記
- 会社の解散・清算に伴う登記
- 相続放棄申述書など裁判所提出書類の作成を依頼する場合
社長名義の土地を会社が使っている場合は、誰がその土地を相続するかを決めた後、相続登記を行います。2024年4月1日から相続登記は義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が原則です。法務省の相続登記案内も確認してください。
税理士へ相談する場面
税理士には、税額計算と税務申告を依頼します。
- 相続税の申告が必要か
- 非上場の自社株をいくらで評価するか
- 会社への貸付金や事業用資産をどう評価するか
- 故人の準確定申告が必要か
- 個人事業を引き継いだ後の税務手続
経営者の相続では、決算書上の役員借入金や自社株の評価が相続財産へ影響します。会社の顧問税理士がいる場合は、死亡時点の決算書、総勘定元帳、申告書を確認してもらうと早く進みます。
弁護士へ相談する場面
次のような場合は、早めに弁護士へ相談します。
- 相続人同士で財産の分け方が対立している
- 会社の経営権をめぐって争いがある
- 借金や個人保証が多く、相続放棄を検討している
- 遺言書の有効性に疑いがある
- 取引先や金融機関から請求を受けている
- 遺留分の請求をする、または受けた
「まだ裁判になっていないから行政書士へ」という分け方ではありません。相手との交渉が必要な時点で、弁護士の担当になることがあります。
土地家屋調査士や金融機関も必要になる
土地の境界が分からない、建物が未登記、登記面積と現況が違う場合は、土地家屋調査士へ相談します。会社借入れ、個人保証、法人口座、故人名義の預金は、取引金融機関への確認も欠かせません。
会社を売却する場合はM&A支援機関、許認可を承継する場合は許可行政庁など、相続後の方針によって相談先が増えることもあります。
最初の相談先を決められないとき
相談前にすべての資料をそろえる必要はありません。次の四点だけでも伝えてください。
- 相続人のおおよその関係
- 会社、個人事業、不動産の有無
- 借入れや保証について分かっていること
- 現在、期限や対立があるか
次の確認へ進む
この記事の問題と一緒に確認しておきたい手続を、次の2本で説明しています。現在の状況に近い方からお読みください。
- 自社株を相続する人が決まったとき、遺産分割協議書にはどう記載する?(執筆中)
- 亡くなった経営者に借金や個人保証があるとき、相続人が最初に確認すること
当事務所が対応する相続業務全体についてはこちらから
坂本倫朗行政書士事務所では、相続関係と財産資料を整理し、行政書士が担当する部分と、他の専門家へ依頼する部分を分けてご案内します。対応内容は相続サービスのページで確認できます。


